春の陽気が少しずつ初夏の陽射しと入れ替わり、暑い夏が刻一刻と近づいてきている。
ビールが美味しい季節だなと思う反面、子供の頃はこんなに苦い飲み物が大好きな大人になるなど想像すらできなかった。体感的にはピーマンの二倍くらい苦いにも関わらずだ。
大人になるというのはこういう事なんだろうと一人納得しつつ、また今夜のビールのことを考えてしまう。
昼の暑さが和らぎ涼しい風が吹いてきた。
人がまばらになった公園を抜ければ家までもう少し。
最近妻にもIPAを勧めるようにしている。IPAの美味さを共有しようと努めた結果、だいぶIPAへの理解が深まってきた。またこんな高いビールを買い込んできて、と小言を言われることが少なくなった反面、二人分のIPAを定期的に仕入れるのは財布には厳しい。
それでも日本のIPA愛好家がこれで一人増えたんだ。IPAを世の中に広める一助になっているんだと無理やり思うようにしている。
しかしまあ海外のIPAは値段が高い。「はるばる海を渡ってきてくれたんだから高いに決まっているでしょう」と天の声が聞こえてきそうだが、薄給のサラリーマンが毎日買って帰れるような代物ではない。頑張った自分へのご褒美、というくたびれたおじさんには縁の無い言い分でも無ければ手が出ないのも現実だ。
それでもIPAが飲める日は単純に気分が高揚する。スキップしたくなるほどだ。
プシュッと心地良い音が響くだけで、そこまで漂ってくるはずもないホップのアロマを想像しゴクリと喉が鳴ってしまう。濁りの少ない金色のビールが専用グラスに注がれ、小さな気泡をぷつぷつと上げながら飲み手の到来を待っている様子にはいじらしさすら感じる。
IPAは泡少なめに注ぐのがポイントだよなーと惚れ惚れしている横から「早く飲んじゃいなさい」と妻の声が聞こえてきそうで身震いしてしまう。
夕暮れの家々から夕飯の匂いが漂ってきた。
先日買い込んだIPAが一缶開栓を待っていたはず。今日は贅沢しよう。